兄と弟

開業記念SS第一弾(?)です。
続編は未定…w

総武線の錦糸町さんから見た半蔵門線の錦糸町くんという構図になってます。
つまるところ兄→弟ですな。

長い文章はしばらく書いていなかったので意味が通る文が書けているか心配です。。




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「ふうん、営団地下鉄半蔵門線ねえ…」
駅前に工事フェンスに貼られた掲示物を興味ぶかそうに眺める男性が呟いた。
Yシャツ一枚に紺地にベージュのラインが入ったネクタイは適当に通し、
髪の色は金髪に近く耳にはピアス…見た目は少々チャラチャラしている。

「半蔵門線って確か、渋谷から通ってるやつだよな」
左手に持った袋から人形焼を1個取り出して一口で頬張ると
「これで、新宿や東京だけでなく渋谷へも一本で行けるようになるのか…ますますいい街になるな」
満足気にうなずくとそっと微笑んだ。

そうしてしばらく眺めてから踵を返し、駅のほうへ向かった。

しかし数歩進んだところではっと足を止めた。
「あれ…?」

「もしかして、俺に弟が出来るかも知れないって事か…?」 
――――――――――



――なんか、無駄に和風だし、俺とはベクトルが全然違う方向を向いてそうやつ
あいつに会った、第一印象はそんな感じだった。
「なんか好きなことはあるか?」
と聞いても、
「絵を描くことです」
「…絵?」
「特に、浮世絵などを」
こんな調子だし。

でも、
「じゃあ裏の顔は浮世絵師ってことでいいんだな」
と冗談交じりにからかってやったら、
「ま、まぁ…絵師と呼べるようなレベルではまだないのですが…」
顔を赤らめて、はにかみながら言ったときは可愛いやつだな、と思ったが。

ある時、一緒に食事でもしようとふと思いついて聞いてみた。
「お前、エスニック料理とか食うほう?」
「…エスニック料理?」
「知らない、か」
まあしょうがないか。人としてこの世界に現れてからまだそれほど経ってないもんな。
「そんじゃ、まずはちょっとタイ料理でも食ってみるか」
そう言ってあいつにグリーンカレーを奢った。まあ導入としては打ってつけだろう。

あいつは、
「辛い…か、から…い……です」
と辛そうな声を出し涙目になりながらも必死に食べ進め…そして完食した。
ものすごい勢いで水を飲んでたのは印象的だったな。
俺なんか月に何度も食ってるから余裕だけど。

「すみません、辛いのは…その…苦手なので…でも、美味しかったです」
「そんじゃ、甘いものが好きだったりするのか?」
と聞くと、
「はい!甘いお菓子は主食です!」
目を輝かせながら多少上擦った声で言った。やはり、あいつの反応は可愛い。
「人形焼、やるよ。何個か食っちまったけど…これ、たぬきの形をしてるんだぜ、面白いだろ。」
思わず人形焼の入った袋を差し出していた。


あいつが現れてから毎年3月18日の夜は何故か眠れなくて、そういうやりとりを思い出しながらただぼんやりと外を眺め、19日の朝を迎える…
いつの間にか瑠璃色の空に、ビルの隙間から見える昨日634mに到達したばかりのスカイツリーが浮かび上がっている。

「そろそろ始発の時間か」
俺が今夜泊まりに使ったこの電車も、何処かに連れていかれるかも知れない。
持ち込んだものを急いでまとめ手提げに入れ、いつでも出られるようにした。

持ち込む物のなかにいつも必ず入っているのは、あいつが描いた絵…
あいつの絵を見ていると、優しい気持ちになれるから。
ある時、寝そべって絵を眺めていたらそのまま下敷きにして寝てしまったことがあったが、
その時良い気分で目覚めることが出来たのでそれからはあいつの絵を枕にして寝ることにしていたりもしている。

―――開業日おめでとう、和瑞
今日はお前に会えるだろうか。
世間は色々大変な時だが折角の記念の日だから、ささやかにお祝いでもしてやりたいものだが…

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